会社を設立するとき、「自宅住所を登記簿に出したくない」「最初から事務所を借りるほどではない」という理由で、バーチャルオフィスを本店所在地にするケースがあります。

実際、株式会社の設立では本店所在地を決めて登記する必要がありますが、物理的な専用オフィスを借りていること自体が株式会社設立の要件になっているわけではありません。法人登記に対応しているバーチャルオフィスを利用して会社を設立することは可能です。

ただし、「登記できる」ことと「その住所で問題なく事業を続けられる」ことは別です。

会社設立後になって、

「このプランでは法人登記できなかった」

「許認可が取れなかった」

「郵便物が届くのが遅い」

「事務所を移したら本店移転登記が必要になった」

と気付くと、余計な費用と手間がかかります。

ここでは、会社設立時にバーチャルオフィスを利用する場合に確認しておきたい7つの注意点を、実務的な視点から解説します。

1.「住所を借りられる=法人登記できる」ではない

最初に確認したいのが、そのプランで法人登記が認められているかです。

バーチャルオフィスには、ホームページやネットショップに住所を掲載するだけのプランと、本店所在地として法人登記できるプランがあります。

例えばGMOオフィスサポートでは、現在の「転送なしプラン」は月額660円ですが、法人登記と郵便物の受取には対応していません。一方、月1回以上の郵便転送が付いたプランでは法人登記が可能です。

つまり、

「月額660円だからここにしよう」

と契約してから会社設立を進めると、登記には別プランが必要だった、ということもあり得ます。

特に料金比較サイトでは「月額○○円~」という最低料金が大きく表示されることが多いため、価格ではなく「法人登記可能なプランはいくらか」を確認するようにしましょう。

2.許認可が必要な事業は契約前に確認する

バーチャルオフィスを利用するとき、特に注意したいのが許認可です。

会社自体は設立できても、その住所では予定していた事業の許可を取得できないケースがあります。

例えば宅地建物取引業では、継続して使用でき、物理的にも事務所として認識できる形態や、接客・執務スペースなどが求められます。単に住所だけを借りる一般的なバーチャルオフィスでは、この要件を満たすのは難しいでしょう。

建設業でも営業所ごとに営業所技術者等を専任で配置するなどの要件があります。

また、有料職業紹介事業についても、事業所の位置・構造・設備などについて許可基準が設けられています。インターネットのみで行う場合など例外はありますが、通常のオフィスと同じ感覚でバーチャルオフィスを選ぶのは危険です。

例えば、

「とりあえず梅田のバーチャルオフィスで株式会社を設立する」
↓
「設立後に宅建業の免許を申請する」
↓
「この事務所では要件を満たせない」

となれば、結局別の事務所を借りて本店を移転することにもなりかねません。

許認可が必要な事業を予定している場合は、バーチャルオフィスを契約する前に所管行政庁や専門家へ確認しておいた方がいいでしょう。

3.バーチャルオフィスだから法人口座を作れないわけではない

「バーチャルオフィスだと法人口座を作れないのでは?」と心配される方もいます。

バーチャルオフィスを利用していることだけで、すべての銀行で法人口座を開設できなくなるわけではありません。

ただし、金融機関は会社の登記だけを見て口座を開設するわけではなく、事業の実態や所在地なども確認します。

例えば三井住友銀行では、法人口座開設時の必要書類として履歴事項全部証明書や印鑑登録証明書などに加え、申込方法によって本店・主たる事業所の建物謄本または賃貸借契約書などを求めています。

バーチャルオフィスの場合は一般的な事務所賃貸借契約とは異なるサービス利用契約になっていることもあるため、どの書類で所在地や利用実態を説明するかは銀行ごとに確認した方がいいでしょう。

会社設立直後なら、ホームページ、事業計画、取引先との契約書や見積書など、「この会社が何をして売上を作るのか」を説明できる資料も準備しておくとスムーズです。

大事なのは「バーチャルオフィスだから口座が作れない」と考えることではなく、会社の事業内容をきちんと説明できる状態にしておくことです。

4.郵便物の転送頻度は必ず確認する

バーチャルオフィス選びでは住所ばかり見てしまいがちですが、実際に会社を運営し始めると重要になるのが郵便物です。

会社を設立すると、税務署、都道府県、市区町村、年金事務所、銀行などから会社宛ての郵便物が届きます。

例えば毎月1回しか郵便物が転送されないプランの場合、バーチャルオフィスには届いているのに、自宅で確認できるのが数週間後になることがあります。

実際にGMOオフィスサポートでも、月1回、隔週、週1回と転送頻度によってプランが分かれており、書留や速達については別の転送ルール・料金が設定されています。

会社をほとんど動かさず郵便も少ないのであれば月1回でも十分かもしれません。

一方、

銀行からの郵便物が多い
行政機関からの書類を早く確認したい
取引先から契約書が届く
書留や宅配便を受け取ることがある

という会社なら、週1回以上の転送や即時転送ができるかも確認しておいた方がいいでしょう。

月額料金が500円安いかどうかより、「重要な郵便を何日後に確認できるのか」の方が、実際の会社運営では重要になることがあります。

5.同じ住所を多くの会社が使うことを理解しておく

バーチャルオフィスでは、一つの住所を複数の会社が利用します。

この仕組み自体に問題があるわけではありませんが、法人登記前に一つ確認しておきたいのが商号です。

商業登記法上、すでに登記されている会社と「同じ商号」で、かつ「同じ本店所在地」の会社は登記できません。法務省も設立前の商号調査を案内しています。

例えば、

大阪市北区○○1丁目2番3号
株式会社Context

という会社がすでに登記されている場合、同じ住所に同じ「株式会社Context」を登記することはできません。

バーチャルオフィスは多くの法人が同じ住所を利用するため、自宅や単独オフィスよりもこの可能性は高くなります。

会社名を決めたら、法人登記を申請する前に予定している住所で同一商号がないか確認しておくと安心です。

また、取引先が会社名や住所をGoogleで検索したときに、同じ住所の会社が複数表示されることもあります。

BtoBの事業をするのであれば、住所だけで信用を作ろうとするのではなく、会社のホームページに事業内容、代表者、問い合わせ先などをきちんと掲載しておくことも大切です。

6.将来オフィスを移すと本店移転登記が必要になる

会社設立時は、

「最初の1~2年だけバーチャルオフィスを使って、事業が大きくなったら事務所を借りよう」

と考える方も多いでしょう。

この考え方自体は問題ありません。

ただし、バーチャルオフィスの住所を本店所在地として登記した場合、後から事務所を移転すると本店移転登記が必要になります。

同じ法務局の管轄内で本店を移転する場合でも、株式会社の本店移転登記の登録免許税は1件3万円です。

さらに別の登記所の管轄へ移転する場合は、旧所在地と新所在地の双方について登記手続が必要になります。

例えば、

大阪市北区のバーチャルオフィスで会社設立
↓
1年後に大阪市内の実店舗へ移転
↓
本店移転登記

という手続が発生します。

そのほか、税務署などへの異動届や銀行・取引先・ホームページ・名刺等の住所変更も必要になります。

「月額料金が一番安いところ」を選ぶだけでなく、少なくとも数年間は使える住所かどうかまで考えて選んだ方が、結果として安く済む場合があります。

7.住所の見栄えより「会社として使いやすいか」で選ぶ

バーチャルオフィスというと、

「梅田駅徒歩○分」
「大阪駅近く」
「一等地住所」

などに目が行きがちです。

もちろん、ホームページや名刺に掲載する住所なので立地も一つの判断材料です。

ただ、法人登記を目的に使うのであれば、それ以上に確認しておきたいことがあります。

例えば、

法人登記できるか
郵便物をどのくらいの頻度で転送してくれるか
書留や宅配便を受け取れるか
急ぎの郵便をすぐ転送できるか
会議室を使えるか
法人名での郵便受取に問題がないか
解約するときの条件はどうなっているか

といった部分です。

例えば月額1,000円のサービスでも、郵便転送が月1回で、そのたびに転送料がかかれば、郵便が多い会社では実際の支払額が思った以上に増えることがあります。

逆に月額料金が多少高くても、週1回転送や来店受取など自社に必要なサービスが含まれていれば、そちらの方が使いやすい場合があります。

バーチャルオフィスは単なる「住所貸し」ではなく、会社の本店として数年間使う可能性があるサービスです。

会社設立時には月額料金だけではなく、実際の会社運営まで考えて選ぶことをおすすめします。

バーチャルオフィスで法人登記する前のチェックポイント

会社設立前には、最低でも次の項目を確認しておきましょう。

確認することチェック内容
法人登記契約するプランで本店登記できるか
許認可予定している事業で事務所要件がないか
法人口座所在地を説明できる契約書類等があるか
郵便転送頻度・書留・宅配便の取扱い
商号同じ住所に同一商号の会社がないか
将来の移転数年後に本店を移す可能性があるか
総額月額だけでなく転送費やオプションも含めて確認

特に「法人登記できるか」と「許認可を取れるか」は別の話です。

バーチャルオフィスを契約してから会社設立を進めるのではなく、予定している事業内容まで考えたうえで住所を決める方が安全です。

バーチャルオフィスで会社設立するメリットも大きい

ここまで注意点を挙げましたが、バーチャルオフィスそのものが会社設立に向いていないわけではありません。

例えばコンサルティング、Web制作、システム開発、広告業、オンラインサービスなど、店舗や常設の事務所を必要としない事業であれば、最初から事務所を借りる必要性はそれほど高くないケースもあります。

月10万円の事務所を借りれば、家賃だけでも年間120万円です。さらに敷金・保証金、家具、インターネット回線、光熱費なども必要になります。

まだ売上が安定していない会社設立直後に固定費を増やすより、バーチャルオフィスを利用して固定費を抑え、その資金を広告や採用、システムなど本業に使う考え方は十分合理的です。

自宅住所を登記簿やホームページに掲載したくない一人会社や小規模法人にも使いやすいでしょう。

大切なのは、「バーチャルオフィスだから良い・悪い」ではなく、自社の事業で問題なく利用できるかを確認してから選ぶことです。

よくある質問

バーチャルオフィスでも株式会社を設立できますか?

法人登記に対応したバーチャルオフィスであれば、本店所在地として利用できるケースが一般的です。

ただし、住所利用だけのプランでは法人登記できないサービスもあるため、契約前に確認してください。

バーチャルオフィスだと銀行口座を作れませんか?

一律に開設できないわけではありません。

ただし、金融機関による審査があり、事業内容や所在地を確認する資料などを求められることがあります。銀行ごとに必要書類や審査方法が異なるため、申込先の条件を確認してください。

自宅とバーチャルオフィスならどちらがいいですか?

自宅を本店にすればバーチャルオフィスの利用料はかかりません。

一方、登記した本店所在地は登記事項となるため、自宅住所を事業用住所として使いたくない場合はバーチャルオフィスが候補になります。

賃貸住宅の場合は、そもそも法人登記や事業利用が契約上認められているかも確認しておきましょう。

バーチャルオフィスは設立前と設立後どちらで契約しますか?

本店所在地は会社設立登記に必要になるため、通常は会社設立前に利用する住所を決めます。

法人設立前の個人名義で申し込み、設立後に法人契約へ変更する仕組みを設けているサービスもあります。申込み方法は各社で異なるため、会社設立予定であることを伝えて契約するとスムーズです。

まとめ|バーチャルオフィスは「登記できるか」だけで選ばない

バーチャルオフィスは、自宅住所を公開したくない方や、固定費を抑えて会社を設立したい方にとって便利な選択肢です。

ただし、法人登記に対応しているプランかどうかだけで判断するのではなく、許認可、法人口座、郵便物、将来の本店移転まで確認しておく必要があります。

特に会社設立前であれば、

「この事業ならバーチャルオフィスを使って問題ないか」

「どの住所で法人登記するか」

「株式会社と合同会社のどちらにするか」

「資本金や決算月をどうするか」

といった事項を一緒に決めておくと、その後の手戻りを減らせます。

Context会計事務所では、会社設立時の本店所在地、資本金、決算月、会計ソフトなど、設立後の経理まで考えた会社設立・法人化のサポートを行っています。

大阪でバーチャルオフィスを探している方は「大阪のバーチャルオフィスおすすめ比較」、バーチャルオフィスを利用した会社設立について相談したい方は「会社設立・法人化サポート」もあわせてご覧ください。

著者情報

早川覚
早川覚公認会計士・Context会計事務所代表
公認会計士、Context会計事務所・株式会社ContextJapan代表として、会計ソフト導入支援、コンサルを行っている。その他、法人化、バックオフィス整備等、経営者の裏方業務を専門としている。