クラウド会計を導入する会社はかなり増えました。

銀行口座やクレジットカードを連携でき、明細を自動で取り込めるため、従来の会計ソフトより経理の手間を減らしやすいのは確かです。freee会計でも銀行・クレジットカード等の明細を自動取得し、会計処理につなげる機能が提供されています。

ただし、実際にクラウド会計を入れれば経理が勝手に楽になるかというと、そうではありません。

むしろ初期設定や運用方法が合っていないと、「今まで手入力していた方が分かりやすかった」という状態になることもあります。

クラウド会計の導入で大事なのは、ソフトそのものよりも、銀行口座、クレジットカード、請求書、領収書、経費精算などをどう会計につなげるかです。

今回は、クラウド会計の導入時に失敗しやすいポイントを、会計実務の視点から7つに絞って解説します。

1.会計ソフトを先に決めてしまう

クラウド会計を導入するとき、freee会計、マネーフォワード クラウド会計、弥生会計 Next、勘定奉行クラウドなどの中から、知名度や料金だけで選んでしまう会社があります。

ただ、どのソフトが合うかは、会社の規模や経理担当者の経験、現在の業務フローによってかなり変わります。

たとえば、社長自身が経理をしていて、銀行口座やクレジットカードの明細をできるだけ手入力せず処理したい小規模法人であれば、freee会計や弥生会計 Nextは候補にしやすいでしょう。freee会計は銀行明細と未決済取引を使った入金消込まで行えますし、弥生会計 Nextも金融機関連携に加えて、請求や経費精算のデータを会計へ連携できます。

参考:スモールビジネスを世界の主役に freee株式会社

一方、簿記の知識がある経理担当者がいて、仕訳を確認しながら処理したい会社なら、マネーフォワード クラウド会計も有力です。複式簿記を前提とした画面設計で、銀行やカードの明細から作成された仕訳候補を確認して登録できるほか、部門やプロジェクトごとの損益管理にも対応しています。

参考:バックオフィスの業務効率化なら「マネーフォワード クラウド」

さらに、経理担当者が複数いて「担当者が仕訳を入力し、上長が承認する」といった運用をしたい会社なら、勘定奉行クラウドのように仕訳のチェック・承認機能を持つソフトも選択肢になります。店舗や事業部ごとの数字を細かく見たい場合も、部門別の試算表や集計ができるかまで確認した方がいいでしょう。

参考:OBC

つまり、「どのクラウド会計が一番おすすめか」を先に考えるのではなく、自社の経理で困っている作業から考えることが重要です。

銀行明細の手入力を減らしたいのか、請求書発行から入金確認までつなげたいのか、店舗別の損益を見たいのか、仕訳の承認フローを作りたいのか。そこが決まれば、比較すべき会計ソフトもかなり絞れます。

会計ソフトは機能が多いものを選べばいいわけではありません。自社で実際に使う機能が揃っていて、今の経理作業を減らせるものを選ぶことが大切です。

2.銀行口座やカードをとりあえず全部連携する

クラウド会計を導入すると、最初に試したくなるのが銀行口座やクレジットカードとの連携です。実際、この機能は非常に便利です。

ただ、連携できるからといって、何でもつなげればいいわけではありません。特に事業用と個人用の支払いが混ざったクレジットカードを連携すると、関係のない明細まで大量に取り込まれ、そのたびに除外したり事業主勘定へ振り替えたりする必要が出てきます。

freeeも、残高管理が複雑になることから、事業用とプライベート用のクレジットカードを分けることを案内しています。

参考:freeeヘルプセンター

クラウド会計を入れるタイミングで、ほとんど使っていない銀行口座やカードを整理してしまうのも一つです。「連携数が多いほど便利」ではなく、「経理に必要な明細だけが入ってくる状態」を作った方が、日々の処理はかなり楽になります。

3.自動仕訳を信用しすぎる

クラウド会計の説明では「自動仕訳」という言葉がよく出てきますが、導入すればAIがすべて正しい勘定科目を判断してくれるわけではありません。特に、取引先名だけでは中身が分からない支払いは、自動化しすぎるとかえって修正が増えます。

例えば、毎月27日に同じ不動産会社へ110,000円を振り込んでいるのであれば、「この支払先は地代家賃」とルールを設定しやすく、自動仕訳との相性はかなり良いです。NTTや携帯電話会社への支払いを通信費、毎月同額のクラウドサービス利用料を支払手数料や通信費として処理する、といった取引も自動化しやすいでしょう。

一方で、Amazonから毎月数万円の請求がある会社では注意が必要です。ある月はコピー用紙や文房具を買って「消耗品費」、別の月は20万円のパソコンを購入して固定資産になることもあります。書籍なら新聞図書費、社員用の飲料なら福利厚生費になる可能性もあります。ここで「Amazon=消耗品費」と自動登録するルールを作ってしまうと、間違った仕訳がそのまま積み上がっていきます。

マネーフォワード クラウド会計では、銀行やクレジットカードから取り込んだ明細に対して自動仕訳ルールを設定できます。例えば「○○ビル管理」という摘要が入った明細は地代家賃、「AWS」なら通信費といった形でルールを作れます。ただし、Amazonや楽天のように購入内容が毎回変わる支払先は、明細だけで自動判断させず、領収書や請求書を見て確認した方が安全です。

freee会計でも同じで、毎月同じ取引は自動登録ルールを使うと便利ですが、取引内容が変わるものまで全部自動化する必要はありません。家賃、通信費、サーバー代、顧問料などは自動化し、Amazon、楽天、ホームセンター、量販店などは人が確認する、と分けた方が実務では安定します。

クラウド会計の自動仕訳は、「人が考えなくてよくなる機能」ではなく、「毎月同じ処理を繰り返す作業を減らす機能」と考えるのが分かりやすいです。最初から100%自動化を目指すより、間違いにくい取引だけ自動化し、判断が必要なものは残す方が、結果として経理の手戻りは少なくなります。

4.会計ソフトだけクラウド化して満足してしまう

ここは意外と多い失敗です。

会計ソフトをクラウド化したのに、請求書はExcel、経費精算は紙、領収書は封筒、給与データは別システムという状態では、経理全体としてはそれほど変わりません。結局、最後に誰かが会計ソフトへ入力し直す作業が残るからです。

クラウド会計の良さが出るのは、会計入力の一つ前の工程までつながったときです。請求データがそのまま売上になり、銀行入金と突合できる。カード明細が自動で入り、領収書も同じ場所で確認できる。こうした流れができると、初めて「入力する経理」から「確認する経理」に近づいていきます。

会計ソフトを入れ替えるだけではなく、請求、支払、経費精算、給与、証憑保存まで含めて一度見直す方が、クラウド化の効果は大きくなります。

5.請求書や領収書の保存ルールが決まっていない

銀行明細はきれいに取り込めているのに、「この支払いの領収書はどこですか?」となる会社もあります。

特に最近は、請求書の受け取り方がバラバラです。メールにPDFが添付されるものもあれば、取引先の管理画面からダウンロードするものもあります。AmazonなどのECサイトから取得する領収書もありますし、紙でもらうものも残っています。

電子取引で受け取った請求書や領収書については、電子帳簿保存法に沿った保存も必要です。国税庁も電子取引データについて保存方法を案内しています。国税庁

重要なのは、制度を細かく覚えることより「誰が、いつ、どこへ保存するか」を決めておくことです。担当者によってGoogle Driveだったりメールの受信箱だったり、会計ソフトだったりすると、決算時に探すことになります。

クラウド会計を導入するなら、仕訳の方法だけでなく証憑の保存場所までセットで決めておいた方がいいでしょう。

6.担当者しか分からない仕組みを作ってしまう

導入担当者がクラウド会計に詳しくなりすぎるのも、場合によっては問題です。

「この取引だけはこの科目」「このカードはこう処理する」「月末にはここを確認する」といったルールが、その人の頭の中にしかない会社は珍しくありません。普段は問題なくても、担当者が休職したり退職したりすると一気に経理が止まります。

だからといって、何十ページもある経理マニュアルを作る必要はありません。よく使う勘定科目、特殊な取引の処理方法、月末に確認する内容、証憑の保存場所くらいは残しておくだけでもかなり違います。

クラウド会計は複数人でデータを共有しやすいのがメリットです。せっかくクラウド化するなら、担当者が変わっても同じ処理ができる状態まで作っておきたいところです。

7.1年間入力してから決算時にまとめて確認する

クラウド会計を使っている会社でも、決算前に会計データを見ると修正が大量に必要になることがあります。

例えば銀行残高が合っていない、カードの引落しが二重に計上されている、売掛金がずっと残っている、同じ取引なのに勘定科目が毎回違う、といった状態です。

こうした問題は1か月分なら直すのも難しくありません。しかし、それが12か月分たまると確認だけでもかなり時間がかかります。

特にクラウド会計を導入した最初の数か月は、入力した結果を一度確認した方がいいでしょう。自動仕訳ルールがおかしければ早い段階で直せますし、証憑の保存方法に問題があれば運用を変えることもできます。

クラウド会計は会計事務所とも同じデータを共有しやすいので、「決算になってから全部見る」より、最初に運用を固めてしまう方が相性のいい使い方です。

クラウド会計導入は「設定」より「経理の流れ」を考える

クラウド会計の導入というと、銀行口座を登録して勘定科目を設定し、データを移行する作業をイメージしがちです。

もちろん初期設定も必要ですが、それ以上に重要なのは、売上が発生してから入金されるまで、経費を使ってから支払われるまで、その情報を誰がどのように会計へ反映するかを決めることです。

ここが整理できていれば、freeeでもマネーフォワードでもかなり便利に使えます。反対に経理の流れが整理されていなければ、高機能なソフトを入れても入力方法が変わるだけになってしまいます。

「クラウド会計を入れたい」という会社は、会計ソフトの比較を始める前に、一度いまの経理作業を書き出してみることをおすすめします。それだけでも、何を自動化すべきかがかなり見えてきます。

自社だけで導入するのが難しいケースもある

取引件数が少なく、経理経験のある担当者がいる会社なら、自社でクラウド会計を設定しても問題ないケースは多いです。

一方で、既存の会計ソフトから移行する場合や、銀行口座・カードが多い会社、請求や経費精算までまとめて見直したい会社は、最初の設計に少し時間をかけた方がいいでしょう。

Context会計事務所では、単にクラウド会計ソフトを設定するだけではなく、現在の経理方法を確認したうえで、会計ソフトの選定から初期設定、運用方法までサポートしています。

クラウド会計を入れたものの思ったほど楽になっていない場合も、ソフトを変更する前に、現在の設定や経理フローを見直すことで改善できる場合があります。

まとめ

クラウド会計は、銀行口座やクレジットカードとの連携、自動仕訳、請求書・経費精算との連携などをうまく使えば、経理業務をかなり効率化できます。

一方で、会計ソフトを入れただけでは経理は楽になりません。どの口座を連携するのか、自動仕訳をどこまで使うのか、請求書や領収書をどこに保存するのか、誰が確認するのかといった運用まで決めておくことが重要です。

特に、これまでExcelや紙を中心に経理をしていた会社や、複数の銀行口座・クレジットカードを利用している会社では、最初の設定次第でその後の使いやすさが大きく変わります。

「どの会計ソフトを選べばいいか分からない」「すでにクラウド会計を導入しているが、思ったほど経理が楽になっていない」という場合は、ソフトを変更する前に、現在の経理フローや設定を一度見直してみるのもおすすめです。

クラウド会計の導入・見直しをご検討の方へ

Context会計事務所では、会社の経理方法や利用状況を確認したうえで、クラウド会計ソフトの選定、初期設定、銀行・クレジットカード連携、自動仕訳の設定、導入後の運用までサポートしています。

新しくクラウド会計を導入したい場合はもちろん、freee・マネーフォワード・弥生などをすでに利用しているものの、うまく使いこなせていない場合もご相談いただけます。

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著者情報

早川覚
早川覚公認会計士・Context会計事務所代表
公認会計士、Context会計事務所・株式会社ContextJapan代表として、会計ソフト導入支援、コンサルを行っている。その他、法人化、バックオフィス整備等、経営者の裏方業務を専門としている。